現代建築の現在-17 歴史地区街並みの非和解性
歴史地区の街並みにモダニズム建築をどのように構想するか・・・という課題はやさしくは無い。 パリの歴史地区のルーブル美術館中庭には、IMペイのガラスピラミット(1989年)が歴史的建築に対峙している。ルーブル宮殿は何度も増築が繰り返された。いくつもの様式が混在し、20世紀にモダニズム様式が加わっている。 ■ポンピドーセンター 1977年完成したポンピドーセンターは、鉄製の細い線材と彩度の高い色彩が周辺の建築の中で際立っている。外観はおよそ歴史地区の街並みとは対照的。当時のパリ市民やフランス国民は、「パリにこんな建築が一つくらいあってもよかろう」と容認したのかもしれないが、複数はあり得ない。 ■ウルビノ大学 イタリア山間部の小さな町ウルビノの歴史地区には、ジャンカルロ・デ・カルロのウルビノ大学の増築棟がある。外壁は古い街並みの素材を踏襲。屋根はフラットルーフで緑化されているので、現代建築と気が付くのはトップライトのガラスのみである。手法はルーブルのガラスピラミッドと同じ。 ■中国の汶村 ワンシュウ(王澍)の中国寒村の集落再生ではいくつもの原則が掲げられている。「過去の再建ではなく伝統的形式にのっとった新しい建築」、「セルフビルド方式の導入」、「テーマパークにはしない」、「中国の地方文化の多様性を保持する」・・・など。石・レンガ・木など自然素材のみ使用し大きなガラス面は使わない、オーバースケールを避け周辺の古民家を尊重する、アマチュアの手を交える・・・というワンシュウの価値観が展開している。 ■松江市伝統美観地区 松江市伝統美観地区の田部美術館(菊竹清訓)は、前面道路沿いの塀と長屋門を残し(又は復元し)庭の奥に美術館を配置している。通りからはコールテン鋼の大きな屋根は目立たない。 これらの例は、歴史地区街並みに現代建築はそう簡単にはなじまない・・・という事を示している(歴史地区街並の非和解性)。 ここでいう歴史地区とは必ずしも伝統美観地区や重要伝統的建造物群保存地区のみを指すのではなく、山陰など日本の農山漁村は基本的に歴史地区であると認識することが正しい・・・と考える。第二次世界大戦で焼け野原となった東京や大阪、広島や名古屋など多くの大都市から農山漁村を眺めるのではなく、農山漁村の歴史からから現代建築を眺めると、「現代(モダニズム)建築は田舎の風景を壊してきた」という事実に否応なく気が付く。それを「町の発展」とか「田舎の近代化」と歓迎する時代はすでに終わった。にもかかわらず、地方都市だけでなく離島や山村にも風景崩壊の波はひたひたと押し寄せている。
by trmt-ken
| 2023-01-29 16:42
| 現代建築の現在
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by 寺本建築・都市研究所 タグ
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