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中井久夫という叡知
イッセイ・ミヤケと同じ日に中井久夫氏の逝去が報じられた。 
精神科医で、随筆の名手。須賀敦子さんや神谷美恵子さんに触れる機会から引かれるようになった。
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精神科医であり語学に堪能であるなど、神谷美恵子さんとの共通点は多いが、神谷さんはどこか聖者の風格があって跳んでしまっているが、中井さんはその直前でとどまっている感じがしていた。そのぎりぎりのところに人間味を感じた。神谷さんがヴァージニア・ウルフの病歴と作品の関係に深入りしていることに危惧を表明したり、阪神大震災に続く現場、自分自身の精神状態の困難とそれを冷静に腑分けする精神力に感嘆する。精神の病は医者にとっても他人ごとではない。ある種、親和性があって、初めて理解できるのだろう。

ピアジェ・ユング・土居健郎・木村敏などが並ぶ父の本棚に囲まれて寝起きしていた頃、そういう分野に進むことも夢みないではなかった。が、同時に惧れとためらいがあった。文学にも通じるけれど、生身の一番敏感な部分を職業とすることへの惧れ。それだけ、精神科医に対する親和性と尊敬をずっと持っている。

中井久夫さんは、造本にこだわられた。そしてカリグラフにも。様々な趣味やこだわりが、困難な仕事を支えていたのではないだろうか。
朝日新聞天声人語によると「自転車に乗れず逆上がりが出来なかった少年」だった由。さらに親近感を覚えた。心の病と信仰・宗教(そして政治まで)を広く見渡すことが必要な時代に賢者を失ったと思う。(礼)
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【読書日記】

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by trmt-ken | 2022-08-11 11:50 | 読書日記 | Comments(0)
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