井伏鱒二の「黒い雨」を再読する。そして再び、これはすごい本だと思う。 印象に残る人物像がある。ひどい悪臭を放つ上品な女性…本人も自分が匂うことを知っている。死に逝く人を看取り続け、ナイチンゲールと慕われ、その代償として。また、素人でありながら弔いを命じられ、僧侶の真似事をせねばならなくなった時、臥せっていた老和尚がしゃんとしてお経を伝授する。はじめは死者のために、最後の「白骨のお文章」は残された者へ。記録は話者のみでなく、妻の日常の覚書や姪の日記など視点を変えながら、また時間も前後しながら淡々と語りつがれる。 桃と生卵で生きながらえた人がいる。徒長する植物がある。不思議な死に方をする魚がいる。…研究者のような細部の表現は静物画をみるようだ。叫びであったならば、読み続けられないだろう。ユーモアさえ感じさせる抑制が、最後まで読ませる。静かで粘り強い奇跡のような文学である。(礼) 書評の放つ光「水の匂いがするようだ」井伏鱒二のほうへ- 2018.1013 自分勝手な保険を掛けるー武満徹著作集-2018.0521 ジャン・コクトーのこと 2018.0211 「吉本隆明1868」鹿島茂-重なりにみえてくるもの 20180203 すぐに眠くなるおまじない⁻聖ベネディクトの戒律 2018.0124 文字に刻む音-蘇東坡によせて 2017.1121 息(いぎ)をするように 2017.0718 猫いよいよ佳境に入る 2017.0203 裏返された座布団-catside down 2016.0716 猫とその後 2016.0616 たどたどしい言葉で 2016.0326 「ある家族の会話」ナタリア・ギンスブルグを読む 2016.0326 高村薫「空海」を読む 2016.0221 干柿のすだれ 2015.1109 2人の敬愛する先達 2015.1106 本好きの本棚 2015.0427 吉本隆明を悼む 2012.0401
by trmt-ken
| 2018-12-08 21:09
| 読書日記
|
Comments(0)
|
by 寺本建築・都市研究所 タグ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
カテゴリ
全体 折々に・・・ ひびきあうもの コンサート・催し 建築カフェ まちづくり 現代建築の現在 建築 着物つれづれ chaillot 隠岐の島たより 年賀 私のお気に入り mint 森のくまさん 読書日記 DOOR 四季の詩 旅日記 市役所 |
ファン申請 |
||