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「黒い雨」再読
井伏鱒二の「黒い雨」を再読する。そして再び、これはすごい本だと思う。
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印象に残る人物像がある。ひどい悪臭を放つ上品な女性…本人も自分が匂うことを知っている。死に逝く人を看取り続け、ナイチンゲールと慕われ、その代償として。また、素人でありながら弔いを命じられ、僧侶の真似事をせねばならなくなった時、臥せっていた老和尚がしゃんとしてお経を伝授する。はじめは死者のために、最後の「白骨のお文章」は残された者へ。記録は話者のみでなく、妻の日常の覚書や姪の日記など視点を変えながら、また時間も前後しながら淡々と語りつがれる。

桃と生卵で生きながらえた人がいる。徒長する植物がある。不思議な死に方をする魚がいる。…研究者のような細部の表現は静物画をみるようだ。叫びであったならば、読み続けられないだろう。ユーモアさえ感じさせる抑制が、最後まで読ませる。静かで粘り強い奇跡のような文学である。(礼)

読書日記
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by trmt-ken | 2018-12-08 21:09 | 読書日記 | Comments(0)
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