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すみか(住処・棲家)の自然-(1)
世界各地の伝統的な家屋は、石や土・木など各々の地域で入手しやすい材料を工夫し造られてきました。日本や北欧・北米などでは木、ヨーロッパでは石、中央アジアやアフリカなどでは土(煉瓦)が主な材料です。石や木・土などの身近な自然を加工して造られた民家や集落、寺院や教会などはとても感動的で、世界中から多くの観光客を集めています。
この様な「歴史的集落や古建築の価値を継承するモダニズム建築 」を造りたい・・と考えてきました。長い間こだわってきた建築を一言で表現するとそうなります。
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伝統的な家屋における材料の分布(地理の研究より)

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石造の教会・煉瓦造の街・木造民家・木造集落

モダニズム建築は「過去の建築との断絶」が特徴のように一般的に捉えられてきました。しかし、コルビュジェもライトやミースも、歴史的建築の価値を内包しながらモダニズム建築に向かっていたように、モダニズム建築も長い建築の歴史と無関係ではありません。初期モダニズム建築の巨匠だけでなく、P.ズントーや堀部安嗣さんなどの近年の建築でも私たちが好ましいと受け止めるものは、歴史的集落や古建築の価値を継承している・・・と改めて思い返しています。

歴史的建築の価値を継承するモダニズム建築にはどのような作法が必要か・・・について吟味してみたいと考え、歴史を簡単に振り返りながら(やや主観に偏ります)、「モダニズム建築が無意識のうちに失ったもの」に焦点を当てて考察します。「モダニズム建築が達成したもの」については多くの論がありますが、失ったものについて再考することにしました。その中から「作法」の手がかりが見えてくるのではないか。

■自然素材の喪失
20世紀に入り新しく鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築が広まっていく過程で、世界各地で一般的であった石造や煉瓦造の建築は造られなくなりました。石や土は建築の構造材であるとともに表装材でもある自然素材です。モダニズム建築は石造や煉瓦造というヒトが慣れ親しんだ自然素材の建築を失ってしまったのです。技術先進国では「構造も表装も自然素材で造る」ということは、木造建築以外不可能になりました。
建築の長い歴史から考えると、このことはとても大きな変化といえます。数千年の歴史を持つ「自然を加工してすみか-をつくる」という人と自然の関係が、この100年で新しい段階に入った・・・ということを意味しています。そのことを「土から離れた近年のモダニズム建築」と表現し、「土なモダニズム」という目標にたどり着きました。

■構造と表装の分離
鉄筋コンクリート造や鉄骨造によるモダニズム建築の「自由なファサード」というコルビュジェの理念は、「構造体と表装の分離」を促し自在で多様なモダニズム建築を生み出しました。

一方そのことが長く続いている間に、「構造と無関係な表装の建築(ハリボテ建築)」が世界中に広まっていきました。そして、性能上の理由や見栄えなどから新しく開発された表装材(新建材)に覆われ、コンクリートや鉄・木などの構造素材は私たちの視界から消えつつあります。「架構デザインの身体性」が希薄になっていったのです。
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RCと鉄の橋>(大野美代子)・石造教会・木造民家・RC造の建物(菊竹清訓)

■組積造建築
石造や煉瓦造の総称である組積造について、辞書(ウイキペディア)には以下のように記述されています。

「耐久性、耐火性、保温性、壁としての遮断性に優れている。このため地震の心配がない国々では、石造がもっとも古くから用いられ、いまでも煉瓦造の建物は少なくない。さまざまな組積法が工夫された結果、優美なアーチ、ドーム、ヴォールトなどが生み出されており、現存する歴史的に著名な建造物の大半は組積構造である。日本には、明治初期に煉瓦造が伝わったが、西欧直輸入の構法をとっていた当時の建物は、濃尾地震( 1891)や関東大震災(1923)で大きな被害を出したため、その後純粋の組積構造はまれになり、鉄筋で補強する構法が一般的になった。」

しかし組積造建築の歴史が乏しい日本でも、探してみるといくつかの事例が残っています。
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荒島石の蔵(安来市)・木骨石造の倉庫群(小樽市)・木骨石造の教会(五島市)・鉄骨煉瓦造の体育館(浜田市)
(続)
「土なモダニズム」について―モダニズム建築の現在より-

by trmt-ken | 2017-04-04 18:18 | 現代建築の現在 | Comments(0)
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