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L’Ecole de Chaillot-2-授業点描-

L’Ecole de Chaillot(パリの古建築研究所)のこと-2〈授業点描〉


何人かの方に、シャイヨー校に進学したいとの相談を受けた。参考までに授業についてのつれづれ。


柱になっているのは、建築史と町並み保存、歴史地区における設計。建築史ことに中世建築史は1887年開校以来充実していて、日本でも西洋建築史の専門家には古くから知られている。戦後の多数の修復事業ののち、単体から町並みへと保全の範囲が広がり、歴史的環境に調和した現代建築を作る需要が増え設計の比重が増してきている。建築・都市計画・造園のほか、壁画・ステンドグラス・タピスリー・インテリア・家具などの歴史、聖遺物・イコンなどの授業があり、私は象徴性などの世界に魅了された。(別の稿にて)


構造はエコル・ポリテクニークから来られた先生で、ほかの先生とは違う空気が漂う。芸術家然とした学生達の技術的レベル(ほとんどゼロ)を把握していて、一からの懇切丁寧な授業であった。課題は、ノルマンディ地方のゴシックの教会の断面を与えられ、1.構造計算により、天井に亀裂の発生している原因の究明、2.応急処置及び3.本格処置の提案をするというもの。静力学の初歩とはいうものの、日本から3角関数のできる計算機を送ってもらってひいひい言って提出した。


「諸君に将来構造計算を依頼するわけではないが、これをすることにより、どこに問題があるかが直覚的にわかるようになる。そのための訓練だ」と目標と方針が明確で、方法まで理論的!と感じ入った。『仮定』と『推論』が大事。たとえば石と石間のモルタルの接合強度はゼロと仮定する、この柱の負担する範囲はここまでと仮定するなど、あらかじめ決まっていることは一つもなく、推論と現実との検証による…大学で技術的分野をすっ飛ばしてきた身には本当に身に沁みる授業であった。


課題のもとになった平面・断面などの作成も実技の課題としてあった。スケールは100分の一と決まっていて、一定レベル以上の図面は正式な記録として保管され活用される。(我が国でも参考にすべし)

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アルルに遠征してモンマジュール修道院墓地礼拝堂に取り組む


論理的な思考は構造にとどまらない。ルネッサンス担当は気鋭の学者(Pérouse de Montclos, Jean-Marie)で、従来の建築史の分類は様式や装飾に傾きすぎと主張されていた。徒弟制度の技術者集団に受け継がれる技術は、様式史とは「ずれ」があり、もう少しゆっくりと、しかし確実な流れで、そうした観点から建築史を見直すべきといわれた。生き生きとして猛烈な早口で、しばしば、学生から「もっとゆっくり!」と悲鳴があがった。当然私には授業中には理解不能。勢いだけ味わい、後で「ゆっくり」と録音にて堪能した。


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ルネッサンスの華・階段:シュトラスブールにて

(礼)


by trmt-ken | 2016-09-05 22:29 | chaillot | Comments(0)
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